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朝の平和を守った男

 【特派員 高尾広志(横浜在住)】 京急のダイヤも、平常化されて車内の混雑も緩和され、Twitterを読めるようになりました。 その日も、iPhoneの小さな画面を見ていると、数メートル先の扉から酔っぱらいが乗ってきました。 手には発泡酒のロング缶を持っています。 朝だと言うのに、だいぶ酔っています。 「そこにいる人、携帯は禁止ですよー。」 「車内マナーを守りましょう。」 ほとんどの人は酔っぱらいの言うことを無視していました。 (酔っぱらいのあなたに、言われる筋合いはない) みんな、そう思っていました。 「その赤い携帯を見ている人、止めろといっているだろ。」 「頭の禿げているじじい、止めねーか。」 「そんなに、仕事やりてーのか。」 だんだん、エスカレートして行きます。 「俺なんか、仕事もねーし、携帯も持ってねー。」 「おめーら、いくら給料もらってるんだ。一千万か。一億か?」 そう言う人は満員電車には乗っていません。 「おらおら、そこの赤い携帯のお兄さん、止めろって言っているのが分からねーか。」 ついに、ひとり一人に注意を始めました。 私はこういう場面になると、全く意気地がないので、言われる前にiPhoneをそっとポケットに隠しました。 酔っぱらいは、上大岡の駅に着く少し前に、若い精悍そうな男の人に言いよりました。 男は全く無視して携帯をいじっています。ヤバいと思いました。 「そこの、にいちゃん。携帯、止めねーか。」酔っぱらいが言ったとたん、男は、酔っぱらいの胸ぐらを掴んで突き飛ばしました。 ちょうど電車の扉が開いて、酔っぱらいは、缶ビールを持ったまま、もんどりうってベンチに倒れ込みました。 男は、この瞬間を狙っていたのだと思います。 「このやろー」 酔っぱらいは、殴り掛かろうとしました。 「きみが、一番迷惑をかけているんだろう。やめろよ。」 (そうだ、そうだ)乗客は、全員心の中で男を応援しています。 押し問答をしているうちに、発車時刻のベルが鳴り、男が電車に戻ると同時に扉がしまりました。 車掌に腕を押さえられた酔っぱらいを駅に残して、電車は静かに走り出しました。 男は車内に戻って、何もなかったように、つり革につかまって携帯に目を落としました。 車内に平和を取り戻してくれたその男