杖をついた50歳くらいの人が、品川駅から乗って来た。私はシルバーシートに座って本を読んでいた。隣の席が空いていたので、当然、座るのかと思ったら躊躇している。しゃがみ込んだり、顔を歪めて胸の辺りを叩いたりしている。すると、その人は、突然、演説をするような口調でしゃべりだした。 「みなさん、健康な人には言っても分かってもらえないと思いますが、私は、心臓にペースメーカーを入れています。携帯電話の電源が入っていると調子が悪くなりますので、ここでは電源を切ってください」 メールをやっていた人は一斉に電源を切った。その男の人は、シルバーシートに座った。新橋の駅で、人が入れ替わった。今までの状況が分からない人が、メールを始めた。男の人は、顔を歪めて胸を押さえながら「やはり、私は逃げるしかありませんね」とみんなに向かって捨て台詞を言ってから電車を降りてしまった。 「社内では携帯電話をマナーモードにしてください。シルバーシートでは電源を切ってください」としつこいほど車内放送が流れている。でも、シルバーシートで電源を切っている人は少ない。携帯電話が,どこでもつながるのは、移動しても定期的に基地局に自分の位置を教えているからである。通話や着信がなくても定期的に電波を発している。その電波がペースメーカーに悪影響を及ぼすのである。車内放送ではそこまで説明しない。放送している駅員は理解しているのだろうか。ほとんどの人は、そのことを理解していないのだと思う。 自分がペースメーカーを使う立場になってよく考えて行動すべきだと思う。私は、これからは、電車に乗ったら携帯電話の電源を切ろうと思う。電車に乗っている時間くらい携帯電話から解放されたって良いじゃないかとも思う。